世にも不思議な巡り合わせ |
「耳なし芳一」の音楽稽古は5月の中旬から、東京の我が家で始めていましたが、合唱は地元の方達なので、私は助手の安達と新幹線で金沢に来て、6月25日に第1回目の立ち稽古をやりました。そして、翌日、泊まったホテルは午前10時チェックアウト、稽古は午後3時、その間の時間の潰し方を考え、評判の高い21世紀美術館へ行くことにしました。
しかし、入場券売場に行って、びっくり、百人位の人が蛇行で黒山のような人だかり。
「こんなに人が集まるんだから、きっと面白い展示だろう、時間潰しに丁度いい。」と安達に並んで貰い、1時間位の後、切符を手に会場入り口へ行き、ポスターを見てびっくり。
なんと、「粟津潔デザイン展」だったのです。粟津潔と言えば、日本国内は勿論、海外にも名を馳せた優れたグラフィック・デザイナーで、十年前に亡くなったそうですが、65年前、私が日活映画会社の宣伝部員だった頃、彼とは机を並べた職場の仲間だったからです。
更に、その後、私はNHKの音楽部へ転じ、主としてオペラ番組を担当、30年勤め上げ、定年退職後、オペラの普及振興を願ってニュー・オペラ・プロダクションを設立。1993年、その第3回自主公演にオペラ「耳なし芳一」を舞台初演することになった時、苦しい予算の中からひねり出した10万円で、ポスターやプログラムのイラスト・デザインを、粟津君のところへ、お弟子さんを紹介してくれるよう頼みに行ったら、「そんな予算では、弟子も引き受けないよ。」と言われ、がっかりしていたら、「昔仲間のよしみで、僕がやってあげよう」と言ってくれ、みごとなイラストが出来上がったのです。 その3年後の「耳なし芳一」再演の時も彼のデザインを使わせて貰いました。
彼の出身地の石川県での2度目の公演の練習に来た時、その粟津潔君のデザイン展にぶつかるとは! 運命の巡り合わせの不思議を思い、彼が天上から笑顔で見守ってくれていることを信じ、この公演の成功に全力を注ぐ決意を更に固めた次第です。
ニュー・オペラ・プロダクション 代表 杉 理 一